ジャッキーステーキハウスのタコスがやたら安い

Photo: “TENDER LOIN STEAK SIZE L x3.”
Photo: “TENDER LOIN STEAK SIZE L x3.” 2019. Okinawa, Japan, Apple iPhone XS max.

その日のジャッキーは、青信号だった。

入り口には、Aサインと混み具合を示す信号機がある。ジャッキーステーキハウスは予約を受けない。信号機の青、は直ぐに入れることを示している。

相変わらずやけに明るい照明、背の高いシートに囲まれたダイナー然とした店内。テキパキした店員に、いささかプレッシャーを受けながらオーダーする。テンダーロインステーキ、なんかLもMもSもたいして値段変わらないから、Lだよね。

「テンダーロインステーキ」
「3つで」
「レアで」
「ミディアムレア」
「レア」

で、なんで人数分頼んでるんだ。ステーキを1つとって、つまみにするんじゃなかったのか。

ステーキ以外のものを頼んでいると、地元っぽい、というアドバイスに従って、タコスも頼む。タコスは5つ入って650円ととても安い、アメリカより安いかもしれない。


相変わらずの粉っぽい微妙なスープを啜りながら店内を伺っていると、観光シーズンを外しているせいか、地元っぽい人が多い。そして、あんまりステーキとか食べてない。冷静にメニューを見ると、ハンバーガーステーキは900円だし、スキヤキは750円だ。地場のファミレス、と考えると割にリーズナブルなのかもしれない。

ステーキ登場。以前来たときに、ブルーで頼んでいるテーブルがあって、頼んだ本人がドン引きしていた。だって、ほぼ「炙り」みたいな肉なのだ。元々、この店の焼き加減は、あまり火が入らない印象だったので、僕は「ミディアムレア「にしたのだが、それでも相当にレアな食べもの。しかし、同行者達が頼んだ「レア」はまた世界が違うらしい。一切れもらうと、なんというか、魚みたいな感じ。いや、美味しいとは思うけれど、それが肉か?っていうと違う気がする。


連れて行った若手の最近の悩みは「太れない」事。その悩みに対応すべく、ここまで栄養価に富んだメニューを選んできた。しかし、ここに来て流石にステーキ+ご飯+タコスに容量の限界を感じているようだ。自分の割り当てのタコスを前に、「限界っす」。

僕はライスではなく、パンに逃げていたし、まだ腹の余裕はあったから彼のタコスをフォローすることは不可能では無かった。しかし、シメのステーキを希望したのは、若手自身ではある。さて、もう一人の友人の判定はいかなるものだろう。普段は物事に対して、実に寛容な人ではあるが、

「ダメ、食え」

そこはえらい厳しいんだな。

「沖縄では、飲んだ後ステーキでシメる」は幻から始まった

Photo: "Jack's Steak House."
Photo: “Jack’s Steak House.” 2019. Okinawa, Japan, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM, PROVIA filter

「沖縄の人は、やっぱり飲んだ後ステーキで締めるんですか?」

「いやー、それはないですね。夜にそんなもの食べられないですよ」

「え。。」

那覇の地元民向けお洒落居酒屋。マスターがいろいろ教えてくれるので、今回もカウンターに陣取っている。この後、何でシメるのか、やはりステーキに行くべきなのか。背中を押してもらうつもりの若者の質問は、しかし全否定で返された。

「もともと、規制があって0時過ぎはお酒を出して営業することが出来なかったんですよ。でも、深夜にアメリカの兵隊さんに食事を出す必要があったので、ステーキ屋は0時を過ぎても営業が許されたんです。」

あー、確かにAサインを掲げるステーキハウスは多い印象。

「で、沖縄の人も遅くまで飲みたいときは、ステーキの店に行って、みんなでステーキを一皿注文して、それをツマミにお酒を飲んだんです。」

そう、別に夜中に好きでステーキを食べていたわけでは無いし、それをシメにしていた訳でもないのだ。


「でも、そういう歴史を知らない若い人達がテレビを見て、ああ沖縄では夜にステーキを食べるんだと。で肉を食べに行き始めた、っていう感じでしょうかね。」

シメのステーキ。それは、テレビで「秘密のケンミンSHOW」を見た沖縄の若者が作った、幻の伝説。そしてそれが、今や現実になってしまった。時代は、メディアが描いた世界をなぞるのだ。じゃあ、我々も幻想を現実化しよう。ステーキハウスいっぱい有るけど、どこに行きましょう。

「私はジャッキー派なんで、是非ジャッキーに行ってください」

会話に入ってきた店員の女子の、確信に満ちたアドバイスによって、ジャッキーに決定。あの謎のスープも、眩しすぎる照明も、生暖かい肉も、僕にとっては何一つ好きな感じがしなかったのだけれど、確かにあそこにしか無い、空気が有る。

「丁度、今なら時間もピークを過ぎて、青信号じゃないですかね」

という声に送り出されて、我々はジャッキー ステーキハウスに向かった。
(続く)

雑煮は家で食べない

Photo: “Zouni.”
Photo: “Silent killer in Zouni.” 2017. Tokyo, Japan, Apple iPhone 6S.

その立ち飲み屋には、よく飲みに行くのだけれど、なるべく人を連れて行かないようにしている。一軒ぐらい、黙って飲む店があっても良いと思うからだ。店の大将と話すことも、あまりない。積極的に声をかける常連も見かけるけれど、僕は別にしゃべりに来ているわけでは無いので、魚の種類が分からないときぐらいしか、こちらから声はかけない。

だから、「明けましておめでとうございます」と、いきなり店主に言われて面食らってしまった。今年も一年、よろしくお願いしたいなと思う。家で作る気がしない、焼き魚とかてんぷらとか、そういったものも、もちろん刺身も、僕はこの店に絶大な信頼を置いている。


正月の日本人を不幸のどん底にたたき込む、ソウル・フェイタル・フード餅。実家では、高齢者をあの世に誘う餅を含んだ雑煮は、既に廃止されて久しい。正月も、普通に味噌汁。

と言うことで、店のメニューに幾つか加わっている正月メニューの中から、雑煮を選ぶ。原価率をあまり考えていない、歯切れの良い本物のかまぼこ。そして、出汁に浸った伊達巻きの独特の味。具には鰤が入っていて、いかにも冬らしいね。