20年の念願

20年、IT業界に居ながら、まるでシリコンバレーに縁が無い生活を送ってきた。変な砂漠みたいな所とか、湿ったアジアの島とか。そんなのばっかり。

なかでも、シリコンバレー組の誰もが口にするなぞの単語、101(ワンオーワン)。


「101の渋滞が酷いんだよねー」

「あのホテル便利なんだけど、101の直ぐ横でうるさいんだよね」

などと、訳知り顔で会話するシリコンバレー組と、僕の間には深い溝があった。101、それはそんなに凄い道路なのか、人々が口々に言う、そのハイウェイは、さぞや特別な場所なのだろう。そして僕はついに、101に向かっている。

Photo: “U.S. Route 101.”
Photo: “U.S. Route 101.” 2019. San Jose, CA, US, Apple iPhone XS max.

くっそ普通の道路だった。

しみじみPrime Bone-In Rib Eyeを食べる、そして食べきれない

Photo: “Prime Bone-In Rib Eye.”
Photo: “Prime Bone-In Rib Eye.” 2019. San Jose, CA, US, Apple iPhone XS max.

店には少し早めに着いた。コンシェルジュのお勧めと、このあたりに詳しい営業のお勧めが一致したのがこの店で、週末とはいえ大層な繁盛ぶり。今回一緒に来ているお客さん達は、先にウェイティングバーで地ビールをやっていた。なにはともあれ、仕事はうまくいったのだから、この数日の難しい表情も無くなって、皆朗らかだ。判断力も言語力も使い果たしていて、席順もろくに決められずにもたもたして、合コン形式で混ぜる感じで行きましょうという方針で、なんとか席に皆を押し込む。全員オッサンだけど。


別に、料理に期待をしていたわけではない。もう、仕事は終わったので、何を食べたってたいていかまわない気分で、エレクトリックタワーというとんでもない名前の地ビールからスタートした。アルコール度数 7.1% IPA でアルコールの後味を感じる強さ。半ば強引に前菜の盛り合わせをお勧めされて、出てきたありがちなフライドカラマリに、一同驚く。これ、明らかにうまい。出張で行くようなアメリカのレストランて、油断していると直ぐに前菜に烏賊を揚げはじめるイメージなのだけれど、衣の薄付き具合といい、塩加減といい、火の通し方といい、明らかに一段うまい。これは期待できるんじゃないか、ってみんなが思った。


ゆっくり食べて、ゆっくり選んで、1時間以上過ぎたところで、骨付きのTボーンステーキ、Prime Bone-In Rib Eye が運ばれてきた。香り高く、塩味は濃い。アメリカのステーキレストランの印象というのは、肝心の味付けはお客に任せるという、それって料理という意味ではどうなの?と思ってしまう印象なのだが、この店はステーキもきっちり味を決めて出してきた。ジャリッとした炭化さえ感じる直火で仕上げた外側、しっかり脂のとけたミディアムレアの内側。肉を食べる文化は、やはり恐れずに火を通す、その思い切り。これは美味しいですねぇ、と話しは弾む。

けれど、やっぱり食べきるのは難しかった。頼むのは、半分の量で良かったかな。

ジャッキーステーキハウスのタコスがやたら安い

Photo: “TENDER LOIN STEAK SIZE L x3.”
Photo: “TENDER LOIN STEAK SIZE L x3.” 2019. Okinawa, Japan, Apple iPhone XS max.

その日のジャッキーは、青信号だった。

入り口には、Aサインと混み具合を示す信号機がある。ジャッキーステーキハウスは予約を受けない。信号機の青、は直ぐに入れることを示している。

相変わらずやけに明るい照明、背の高いシートに囲まれたダイナー然とした店内。テキパキした店員に、いささかプレッシャーを受けながらオーダーする。テンダーロインステーキ、なんかLもMもSもたいして値段変わらないから、Lだよね。

「テンダーロインステーキ」
「3つで」
「レアで」
「ミディアムレア」
「レア」

で、なんで人数分頼んでるんだ。ステーキを1つとって、つまみにするんじゃなかったのか。

ステーキ以外のものを頼んでいると、地元っぽい、というアドバイスに従って、タコスも頼む。タコスは5つ入って650円ととても安い、アメリカより安いかもしれない。


相変わらずの粉っぽい微妙なスープを啜りながら店内を伺っていると、観光シーズンを外しているせいか、地元っぽい人が多い。そして、あんまりステーキとか食べてない。冷静にメニューを見ると、ハンバーガーステーキは900円だし、スキヤキは750円だ。地場のファミレス、と考えると割にリーズナブルなのかもしれない。

ステーキ登場。以前来たときに、ブルーで頼んでいるテーブルがあって、頼んだ本人がドン引きしていた。だって、ほぼ「炙り」みたいな肉なのだ。元々、この店の焼き加減は、あまり火が入らない印象だったので、僕は「ミディアムレア「にしたのだが、それでも相当にレアな食べもの。しかし、同行者達が頼んだ「レア」はまた世界が違うらしい。一切れもらうと、なんというか、魚みたいな感じ。いや、美味しいとは思うけれど、それが肉か?っていうと違う気がする。


連れて行った若手の最近の悩みは「太れない」事。その悩みに対応すべく、ここまで栄養価に富んだメニューを選んできた。しかし、ここに来て流石にステーキ+ご飯+タコスに容量の限界を感じているようだ。自分の割り当てのタコスを前に、「限界っす」。

僕はライスではなく、パンに逃げていたし、まだ腹の余裕はあったから彼のタコスをフォローすることは不可能では無かった。しかし、シメのステーキを希望したのは、若手自身ではある。さて、もう一人の友人の判定はいかなるものだろう。普段は物事に対して、実に寛容な人ではあるが、

「ダメ、食え」

そこはえらい厳しいんだな。

「沖縄では、飲んだ後ステーキでシメる」は幻から始まった

Photo: "Jack's Steak House."
Photo: “Jack’s Steak House.” 2019. Okinawa, Japan, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM, PROVIA filter

「沖縄の人は、やっぱり飲んだ後ステーキで締めるんですか?」

「いやー、それはないですね。夜にそんなもの食べられないですよ」

「え。。」

那覇の地元民向けお洒落居酒屋。マスターがいろいろ教えてくれるので、今回もカウンターに陣取っている。この後、何でシメるのか、やはりステーキに行くべきなのか。背中を押してもらうつもりの若者の質問は、しかし全否定で返された。

「もともと、規制があって0時過ぎはお酒を出して営業することが出来なかったんですよ。でも、深夜にアメリカの兵隊さんに食事を出す必要があったので、ステーキ屋は0時を過ぎても営業が許されたんです。」

あー、確かにAサインを掲げるステーキハウスは多い印象。

「で、沖縄の人も遅くまで飲みたいときは、ステーキの店に行って、みんなでステーキを一皿注文して、それをツマミにお酒を飲んだんです。」

そう、別に夜中に好きでステーキを食べていたわけでは無いし、それをシメにしていた訳でもないのだ。


「でも、そういう歴史を知らない若い人達がテレビを見て、ああ沖縄では夜にステーキを食べるんだと。で肉を食べに行き始めた、っていう感じでしょうかね。」

シメのステーキ。それは、テレビで「秘密のケンミンSHOW」を見た沖縄の若者が作った、幻の伝説。そしてそれが、今や現実になってしまった。時代は、メディアが描いた世界をなぞるのだ。じゃあ、我々も幻想を現実化しよう。ステーキハウスいっぱい有るけど、どこに行きましょう。

「私はジャッキー派なんで、是非ジャッキーに行ってください」

会話に入ってきた店員の女子の、確信に満ちたアドバイスによって、ジャッキーに決定。あの謎のスープも、眩しすぎる照明も、生暖かい肉も、僕にとっては何一つ好きな感じがしなかったのだけれど、確かにあそこにしか無い、空気が有る。

「丁度、今なら時間もピークを過ぎて、青信号じゃないですかね」

という声に送り出されて、我々はジャッキー ステーキハウスに向かった。
(続く)

美マヤー

Photo: "Beautiful Mayaa (Okinawa cat)."
Photo: “Beautiful Mayaa (Okinawa cat).” 2019. Okinawa, Japan, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM, PROVIA filter

とても綺麗な猫が居た。美マヤー。(マヤー = 猫)

猫だまりの猫たちは、まだ僕を警戒して遠くに取り巻いているが、彼女(多分)だけは、悠然と毛繕いをしている。そして、時折鋭い野良の目で僕を見る。

暮れていく空は、めまぐるしく色を変え、遠巻きにしていた他の猫たちも、だんだん近づいてくる。自分の日常から遠く離れた島で、この生きものたちと一緒にいるこの時間。

夏と違って、ずいぶん冷たい風が吹き付けるこの場所には、生まれたばかりの子猫を連れた母親の姿もある。早く春になって、楽に過ごせるようになったらいいね。