3月10日と3月11日

3月。朝からBBCでは、人類史上最大規模の都市無差別爆撃である、東京大空襲をくり返し取り上げていた。当時、膨大な遺体の仮埋葬場所として使われた都内の公園には、今、美しく桜が咲き誇っている。


東京大空襲はなぜ10万人超の死者を出したのか。あの当時、東京の空襲は予告されており、空襲される事がわかっていた。木造建築が大半を占める居住地域に焼夷弾が落ちれば、極めて大規模な火災が発生することは、既に日本側でも科学的に予測されていたという。

しかし、首都東京の住民を全て疎開させることは、戦争の継続という観点において実質不可能な選択肢とされた。だから、疎開は厳しく制限され、東京から逃げることは困難だった(経済的な面からも、そして同調圧力的な部分からも困難だっただろう)。当時の防空法は(そういう法律が存在した)、空襲下に於いて民間人が避難することを禁止し、防火活動を強制した。例えば、空襲にあったロンドンでは地下鉄は防空壕に使われたが、当時の東京の地下鉄を空襲時の避難に使うことは禁止された。そのあたりの話は、「防空法」に詳しい。(最後のまとめのあたりで、突然アカデミックな検証というバランスが崩れて、妙な左翼本になってしまっているが、主な内容には読む価値がある。)

10万余の都民は、そうした愚かしい防空戦略の犠牲になったのだ。戦争が悲惨だからそういう犠牲が出るのではない。愚かしい政策によって、悲惨な犠牲が出るのだ。戦争に巻き込まれるのはごめんだが、その中で愚かしい政策の犠牲になるのはさらに御免被りたい。


疎開、という事で言えば、ごく最近にも僕たちは大きな選択を迫られた。

3月11日の地震と、それに続く原発事故。あれから8年の年月が流れ、今見れば東京はオリンピックに向けて空前の建設ラッシュを迎えている。あの日から続く数週間の、閑散とした東京で、ここまでの復興を予想することは困難だった。結果としては、東京を遷都する必要は、無かったようだ。

しかし、あの当時、外資系企業の中では、非常事態として従業員及び家族を西日本地域に移動させるプランを現実のものとして検討していた所もあるし、実際にある期間、関西でのオペレーションに切り替えていた企業も存在する。

果たして、東京が本当にダメだったら、我々は理性的に東京を捨てるプランを実行することが出来ただろうか。それとも、この場所に留まって更に甚大な被害を出すことになっただろうか。74年前の日本が出来なかった決断を、現代の日本は出来たのだろうか。できなかったのではないか、それがあの時の空気から感じた、僕の感想だ。

大手町のハンブルグステーキ

Photo: “Hamburg Steak.(Tsubame Kitchen)”
Photo: “Hamburg Steak.(Tsubame Kitchen)” 2019. Tokyo, Japan, Apple iPhone XS max.

大手町で仕事が終わった11:24。ランチに絶好のタイミング。どんな人気店でも入れる。

田舎侍には、大手町ランチの選択肢なんてとっさには浮かばない。そう言えば、つばめグリルで食べた、という話をたまに聞くが、行ったことがない。Oazoまで少し歩く。

つばめKITCHEN、なんか名前が違うけれど、だいたい同じようなものだろう。接客はとてもきちんとしていて、カウンターもあったけれど、うまくテーブルに案内してくれた。


初めて来たのだから、30年前からの看板メニューを選ぶのが良いのだろう。つばめ風ハンブルグステーキを頼むと、出てくるまで暫く時間がかかった。ランチ時の人気メニューでも、作り置きをしていないのだろう。

後で調べると、アルミフォイルで包まれたハンバーグの演出が目新しくて、当初は人気が出たと書いてあった。今となっては、フォイル包みは目新しくないが、この店がパイオニアなのだろう。包みを破ると、小さなシチュー肉も添えられていて、嬉しくなる。店内でひいた粗めの肉はうまいし、付け合わせの野菜も、皮付きのジャガイモも、丁寧に作られている。

飾りに付いている立派なクレソン。自分で料理をしない人は、クレソンを食べずに放っておく。僕にはできない。


右隣の二人組は、仕事の打ちあわせをしながらの食事。せっかくの料理を、もうちょっと楽しめば良いのに。左隣の老人は、僕より後に注文して、僕より早く食べ終わり、丁度の小銭をきっちり数えてから席を立った。永く、つばめグリルに来ているのだろうか。

大手町は支店だが、元は戦前から続く店だ。現代のランチ価格から言えば、少しだけ高いと思う。しかし外食が贅沢であった時代の、ちゃんとした材料を使う店だ。12時を過ぎて店が混んでも、丁寧な接客は変わらなかった。東京駅の目の前で、こういうものがこういう値段で食べられるのは嬉しい。浅草あたりの、意味不明な洋食を意味不明な値段で食わされる店よりずっと良い。気が利いている。

Bluetooth DAC が意外と良い

Photo: “Radsone Earstudio ES100.”
Photo: “Radsone Earstudio ES100.” 2019. Apple iPhone XS max.

iPhone XS maxに替えて、思っていたより良い製品で大変満足していたのだが、飛行機でノイズキャンセリングイヤフォンを出したときに、あ、これジャックねーじゃんという事に改めて思い至った。その時は、会社携帯でしのいだけれど、いつかはなんとかしなくては。結構気に入っているQuietComfort20をお払い箱にするのは忍びない。答えはBluetoothかDACだが、前に衝動買いしていたM-AudioのUSB DACをXSは認識してくれなかった。

買うか、DAC。何も考えずにAppleの尻尾でも良いかと思ったが、そんないい加減なガジェット選びでは、いけない。とはいえ、有線式のポータブルアンプ、絶対使わなくなる自信がある。実際、M-AudioのDACはろくに使わなかったし。


しばらく見ない間にBluetooth DACがだいぶ進化していて、候補は簡単に見つかった。値段もオーディオ界で言えば消費税みたいなもの。このあたりは、目を離したら直ぐに進化する。外付DACは、相対的にはニッチな製品だと思うが、スマホのアクセサリーとなると母集団の規模が違うのだろう。

少し調べてFiiO BTR3にほぼ決めてかけたのだけれど、土壇場でRadsone Earstudio ES100に変更。見た目の完成度とかはFiiOだけど、クラウドファンディングとか、頻繁なファームウェアアップデートとか、無数に細かい設定とか、僕が買わなきゃいけない要素がありまくる。バッテリー持続時間は公称14時間だから、ヘッドフォン側よりも長い。


雪の中、いつも驚異的に愛想が良いヨドバシエクストリーム便がその日のうちに届けてくれた。申し訳ない。パッケージを開けて、iPhoneの設定用アプリに繋いだ瞬間にファームウェア・アップデートを求められ、しかもMacのターミナル経由でアップデートをかける必要があるというハードル。スマホではメインテナンスが完結できず、それなりの知識が前提という所で、およそマニア層向け。とはいえ、見た目や質感は思ったより悪くないし、サイズも悪くない。

暫く使ってみて、音はもちろん、多分、良い。それは主観の問題。無音時のノイズがまるで無いのが良いし、アナログボリュームが内蔵されているのも合理的。アプリから使われているcodecが確認できるのが精神衛生上良い。オーディオなんて、スペックで食べるようなものだから、デュアルDACなのもわかりやすく音が良さそう。


かつて見たことが無いほどの、ワイヤレスイヤフォン装着率を誇るサンノゼ便で、この組み合わせは十分に動作した。物理プラグがあるから機内のVODも見られるし、特に電源をON/OFFすることも無く10時間動作して、DACのバッテリーは30%も残っていた。良い買い物だったと思う。

20年の念願

20年、IT業界に居ながら、まるでシリコンバレーに縁が無い生活を送ってきた。変な砂漠みたいな所とか、湿ったアジアの島とか。そんなのばっかり。

なかでも、シリコンバレー組の誰もが口にするなぞの単語、101(ワンオーワン)。


「101の渋滞が酷いんだよねー」

「あのホテル便利なんだけど、101の直ぐ横でうるさいんだよね」

などと、訳知り顔で会話するシリコンバレー組と、僕の間には深い溝があった。101、それはそんなに凄い道路なのか、人々が口々に言う、そのハイウェイは、さぞや特別な場所なのだろう。そして僕はついに、101に向かっている。

Photo: “U.S. Route 101.”
Photo: “U.S. Route 101.” 2019. San Jose, CA, US, Apple iPhone XS max.

くっそ普通の道路だった。

しみじみPrime Bone-In Rib Eyeを食べる、そして食べきれない

Photo: “Prime Bone-In Rib Eye.”
Photo: “Prime Bone-In Rib Eye.” 2019. San Jose, CA, US, Apple iPhone XS max.

店には少し早めに着いた。コンシェルジュのお勧めと、このあたりに詳しい営業のお勧めが一致したのがこの店で、週末とはいえ大層な繁盛ぶり。今回一緒に来ているお客さん達は、先にウェイティングバーで地ビールをやっていた。なにはともあれ、仕事はうまくいったのだから、この数日の難しい表情も無くなって、皆朗らかだ。判断力も言語力も使い果たしていて、席順もろくに決められずにもたもたして、合コン形式で混ぜる感じで行きましょうという方針で、なんとか席に皆を押し込む。全員オッサンだけど。


別に、料理に期待をしていたわけではない。もう、仕事は終わったので、何を食べたってたいていかまわない気分で、エレクトリックタワーというとんでもない名前の地ビールからスタートした。アルコール度数 7.1% IPA でアルコールの後味を感じる強さ。半ば強引に前菜の盛り合わせをお勧めされて、出てきたありがちなフライドカラマリに、一同驚く。これ、明らかにうまい。出張で行くようなアメリカのレストランて、油断していると直ぐに前菜に烏賊を揚げはじめるイメージなのだけれど、衣の薄付き具合といい、塩加減といい、火の通し方といい、明らかに一段うまい。これは期待できるんじゃないか、ってみんなが思った。


ゆっくり食べて、ゆっくり選んで、1時間以上過ぎたところで、骨付きのTボーンステーキ、Prime Bone-In Rib Eye が運ばれてきた。香り高く、塩味は濃い。アメリカのステーキレストランの印象というのは、肝心の味付けはお客に任せるという、それって料理という意味ではどうなの?と思ってしまう印象なのだが、この店はステーキもきっちり味を決めて出してきた。ジャリッとした炭化さえ感じる直火で仕上げた外側、しっかり脂のとけたミディアムレアの内側。肉を食べる文化は、やはり恐れずに火を通す、その思い切り。これは美味しいですねぇ、と話しは弾む。

けれど、やっぱり食べきるのは難しかった。頼むのは、半分の量で良かったかな。