ディストピアビュー

"From room window."
Photo: “From room window.” 2017. Vladivostok, Russia, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM, ACROS+Ye filter

ホテルの部屋の窓から、必ず写真を撮る。ここ数年、そうしている。

ウラジオストクの中心部から少し離れたホテルは、前の道路が路面電車のレールの撤去工事中で、空港からのタクシーは容易に近づくことができなかった。結局、300mほど離れた高速の高架の下で降ろされる。おそロシア。


見たことのないブランドのエレベーターに乗って(外国に行くと、エレベーターのブランドを見てしまうのは僕だけか)、5階へ。緑色の扉を開けると、部屋は思ったよりも広く、ベッドはやたら低く、そして何か虫が飛び回っていた。夏のツンドラが、酷く羽虫に覆われるように、ウラジオストクも存外虫が多い。

レースのカーテンを開けて、外を眺めると、そこは元国営工場か何かの廃墟。巨大な朽ちかけのコンクリート製サイロが、部屋からのビュー全てを覆い尽くしている。あえて言うなら、「サイロビュー」。朽ちているように見えて、車両が停まってなにか工事をしているような雰囲気もある。謎の給水塔のような巨大な部品が、側らに転がったまま錆び付いている。こんなディストピアな景色を展開するホテルには、ちょっと泊まったことが無い。大変、気に入ってしまった。

虫を追い出そうとして、窓をいじっていたら、窓ごと外れかけた。それもまた、おそロシア。

「ちっ、負けるかよ」

the view from Orchard load
Photo: “the view from Orchard load” 2016. Singapore, Apple iPhone 6S.

ピシッと整えられたシーツの上に、バックパックを投げ出して、「ちっ、負けるかよ」と思う。いや、声に出していたかもしれない。

オーチャードの繁華街に面する部屋は、意外にも緑が多く目に入ってくる。このところのホテルの部屋の窓から見た景色の中では、だいぶ良い部類に入るのではないか。


とにかく、夕飯までまずは寝ようと思う。3時間後のアラームをsiriにセットして、横になる。iPhoneが現地時間にローミングしているか、ふと不安になって見直す。大丈夫。

湿った外気でじっとりしていた体が、冷たいシーツで冷えていく。うまく寝られそうな気がする。

いつもシンガポールの出張はつらい。どんどんつらさレベルが上がっている気しかしない。ふり返ってみれば、その予感は、やっぱり当たっていたのではあるが。。

プレゼンテーション

From the windowsill in Las Vegas
Photo: “From the windowsill in Las Vegas” 2015. Las Vegas, U.S., Apple iPhone 5S.

真っ昼間に一人部屋に戻って、夕方からのプレゼンの準備をしている。だだっぴろいスイートルームには、僕のリュックと小さなスーツケースが所在なく置いてある。無意味にでかいライティングデスクに PC を置いて、きっちり詰めた Power Point のファイルを再生する。

ホテルの中庭に面した大きな窓からは、プールが見えている。泳いでいる人は少なくて、たいていはのんびり日光浴をしている。多分、中庭には一度も行かずに終わるだろう。冷房で冷え切った室内に、分厚いガラスを通して僅かに砂漠の太陽の熱気が伝わってくる。


いつもはやらないが、今日ばかりは声に出して、実際に話してみる。僕は昔から、スクリプトを作る、ということはしない。その代わり、スライド毎に話すトピックが即イメージされるまで、各ページをしつこく眺める。

誰も座っていないソファーを観客にして、2回流す。時間はぴったりだ。あとは本番でどれだけ、余計なことを言わず、流れをシンプルに維持できるか。テンションを落とさないで、最後まで行けるか。

ステージに立ったときに、この準備の時間が自分を裏切らないことは分かっている。できることはやったのだから、のんびり本番を待てばいい。それでも、今日ばかりは時間がなかなか過ぎない。