羊ベェェ。

sheep
Photo: "Sheep" 2011. Yamanashi, Apple iPhone 3GS, F2.8/37.

ちょっと行ったところに、羊が居るらしい。そんな話を訊いて、旅先の宿から出かけてみる。

初夏の太陽がカッと照りつけ、高原のカラカラした空気の中でも、汗が出てくる。

時折日陰で休みながら、牧場へとてくてく歩く。


何かの理想をもってつくられた、瀟洒なペンションが建ち並び、かと思うと何かの理想が妥協になってしまった、ペンションだか民宿だかわからない建物がまじる。ああ、ニッポンの観光地、といった光景。

やがて県道沿いに、牧場が見えてきた。人気の無い、埃っぽい牧場。建物の影から、草刈り機の音がするが、人影は見えない。

かまわず中に入っていくと、囲いの中に、いきなり羊が居た。樹脂で出来た、いたって実用的な小屋の脇の、せまっくるしい柵の間に、午後の日を浴びながら我慢強く立っている。


ふれあい広場、の看板はあるが、係の人は居ない。柵の外から勝手に触れあう分には、無料であろうと解釈する。山羊が三匹ばかりと、羊が一匹の、ふれあい広場。

それにしても、えらく暑い。なにをするでもなく、羊が立っている。のぞき込むと、羊も僕をのぞき込んでくる。そして、ベェェェ、と驚くべき音量で鳴く。

ベェェェ、ベェェェ。

鼻の頭が、繊細にシワシワになっている。毛は短く刈られて、くしゃくしゃになって湿っている。暫く眺めて、ふむ、と思って背を向けると、わざわざ身を翻して、ベェェと僕を呼ぶ。


やや傾いてきた太陽の下で、ベェェと向かい合いながら眺めている。目が、白ブドウのように澄んでいた。