ランウェイの近くまで

Photo: 2002. Nagoya International Air Port, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Kodak EB-2, F.S.2
Photo: 2002. Nagoya International Air Port, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Kodak EB-2, F.S.2

ランウェイの近くまで走った。その間にも、飛行機はみるみる近づいて来る。巨大なジェットは、あっと言う間に頭上をかすめ、鉄条網の向こうに消えた。

少しして、石油ストーブの燃え残りのような、甘くむせっぽい匂いがする。懐かしい、景色だ。


小学校の頃に住んでいた家は近くに空港があって、真上を飛行機がよく通った。

僕はその頃、まだ飛行機に乗った事がなくて、銀色ににぶく光る胴体を、家の庭からまぶしく眺めた。乗りたいとは思わなかった。あれは、特別な人が乗るものだと思っていたからだ。


そして大人になって、飛行機に何度も乗って、何度も旅をした。

僕は旅が好きだ。


注:名古屋国際空港近くの公園は、ほんとに滑走路ぎりぎりまで近づく事ができる。

知多半島: 鴎

Photo: 2002. Chita, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Fujifilm RHP III, F.S.2
Photo: 2002. Chita, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Fujifilm RHP III, F.S.2

太陽は少し前に、沈んだ。水平線の向こうから、薄く差す残照に、ぼんやりと海が光る。暖かい色はもう無い。

この時間の海は、どこか僕を不安にさせる。見知らぬ土地の、見知らぬ海。


目を凝らすと、海面からポツポツと何かが生えている。杭。その上に、蹲る無数の鴎。

鴎は鳴いていない。湿った海風を受けながら、ただ杭の先端に蹲っている。そこが彼らの家という訳ではあるまいが。

その光景は、僕の目に酷く寒々しく映った。そして、朽ちた杭の上に羽を休めるあんな鴎だけはなりたくない、そんな馬鹿げたことを考えた。


数日の旅行から帰り、いつものように撮影したフィルムを冷蔵庫に入れ、一息ついていた。ふと部屋を見回すと、4月のままのカレンダー。本棚には、くもの巣がかかっていた。

寂寥というのではない。ただ、思い出したのは、何故かあの鴎たちの事だった


注:既に太陽が沈み、手持ちで撮影できるぎりぎりの明るさ。海岸の道路を歩きながら撮った1枚。よく映ってたなぁ。

名古屋味噌煮込み饂飩

Photo: 2002. Nagoya, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), RHP III, F.S.2,
Photo: 2002. Nagoya, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), RHP III, F.S.2,

「もし味噌煮込み饂飩を食べるんだったら、山本屋本店ってのがあるからそこに行きな」

友達が教えてくれた店名を頼りに、饂飩屋を探す。山本屋本店の暖簾をくぐると、店は3分ほどの客の入りだ。午後2時をまわった、ちょっと半端な時 間。一人で食べている客はいない。昼時もはずしているし、東京から来ているサラリーマンは、新幹線ホームの立ち食い饂飩屋のほうを使うのだろう。


店構えは、駅地下街の中とはいっても、かなりきちんとしている。どっしりした木のカウンターが店の中央に据えられ、余裕のあるゆったりした造りになっている。メニューの数は少なく、基本的に饂飩と、酒のつまみが幾品かあるだけ。ちゃんとした饂飩屋だ。

値段は安くない。うどんだけで、2,000円ぐらいする。でも、せっかくだから、味噌モノをちょっとは食べておかないといけない。名古屋名物モーニ ングは、コーヒーもトーストも苦手なので、パスしてしまったし。一昨日ここに来て以来、名古屋らしいものなんて、一つも食べていないのだ。(たまたま入っ た回転寿司屋で「エビフライ握り」を食べたが、それはまた名物とは別のものだろう)

腹が減っていた。考えてみれば、朝飯を食べていない。名古屋コーチンという手もあるけれど、今の気分は黒豚。黒豚入りの味噌煮込み饂飩を注文する。煮込み饂飩には、問答無用でお変わり自由のご飯がついてくるらしい。


味噌煮込みというからには、さっさと出てくるものではない。先に漬物の入った大振りの鉢が出てきた。それだけ食べているのもなんだかマヌケなので、 ビールを頼んだ。周囲を見渡すと、それはそれは熱そうな饂飩のようだ。猫舌だから、冷たい飲み物をたのんで正解か。漬物の鉢に入っている、大量のスライス 紫タマネギの用途がいまいちわからない。饂飩と一緒に食べればよいのだろうか。聞くのも面倒なので、ビールのつまみにしてみた。(あんまり合わなかった、 きっと饂飩用なのだ)

やがて、見るからに危険な熱さを感じさせる風体で、味噌煮込み饂飩が運ばれてくる。土鍋いっぱいに饂飩が盛られ、生卵と葱、豚ばら肉があしらってあ る。つゆの色は、こげ茶色とでも言おうか。まさに名古屋の色だ。まず味は、、熱くてよく分からない。麺は熱すぎるから、豚肉とご飯で暫く食べている。

そのうち、やや冷めてきた。つゆの味は濃く、ご飯が付いているのがちょうど良いくらい。味噌に甘みはあるが、嫌味に感じるほどではない。饂飩のコシ は驚くべきほどのものではないが、悪くはない。固めに茹でた麺には、メリケン粉の甘さがある。値段と看板だけのことはある、よくできたプロの料理という印 象。名古屋で売られている「味噌なんとか」という手合いのものを過去に何種類か食べたが、ここの味噌煮込み饂飩がもっともリーズナブルというか、味噌味に する意味があるというか、納得のいくものだった。(味噌味の焼肉とか、味噌焼きそばとかは、やはり受け入れがたいものがある)

熱さと格闘しながら、30分以上かかって食べ終わる。麺も、ご飯も、なんとか平らげた。この量で、さらにご飯をおかわりする人なんているのだろうか。あ、居るね、、。


会計はビールと饂飩で3,000円ちょっと。饂飩を食べたと思えば高く、しっかりした郷土料理を食べたと思えば納得。

えらく腹いっぱいにはなる、ということは確か。


注1:名物名古屋コーチン、とおぼしき鳥。何故か寺の境内に放し飼いになっていた。
注2:今回行ったのは、山本屋本店という店だが、似たような名前の饂飩屋がいろいろあるようだ。