韓牛なるもの

Hanwoo.
Photo: “Hanwoo.” 2016. Seoul Korea, Apple iPhone 6S.

やっぱり韓国では毎日焼肉なの?という今から考えれば無邪気で、いささか失礼な僕の質問に、いや、豚(サムギョプサル)が多いかな、と現地の同僚は答えた。それは、もう15年ぐらい前の話。

その頃食べた韓国の牛肉は、恐らくはアメリカからの輸入で、いかにも赤身の噛み応えを重視したU.S.ビーフだった。それは、今になって思えばの話で、当時の僕は韓国の牛肉を絶賛している。今読むと恥ずかしい話だが、それも15年の歴史。

そして最近、新たなる韓国ブランドの牛が台頭しつつある。恐らくは、和牛の遺伝子を受け継ぐという(どうやってそれを入手したのか?という話題にはあえて触れまい。。)噂に高い、韓牛というものを食べに行ってみよう。


とは言ったものの、韓牛はあまり流通が無いらしく、どこでも食べられる訳では無いようだ。ソウル駅から電車に乗って水原駅へ、さらにタクシーに乗って、やっとたどり着いた韓牛の店。見た目は、いかにも流行っていそうな焼肉屋、カボジョンカルビ。

店の佇まいは日本の韓国料理屋と同じ。いや、日本の韓国料理やがよく出来ていると言うことか。毎度お馴染みのチリチリパーマのおばちゃん達が、テキパキとお膳の準備をしてくれる。そうして、並んでやってくるおかずが、種類も多くて美味しい。

韓国企業に勤務経験のある友人は、水キムチを絶賛している。なんというか、目の付け所が玄人筋だな。あと、唐辛子まみれの沢蟹みたいなやつが、美味かった。

メニューを見ると、普通の牛に比べて、韓牛は別格の値づけになっている。しかし、このためにわざわざここまで来たのだから、迷わずオーダー。


韓牛、焼く前の見た目は、あんまり馴染みのない肉の色。少し黄味がかかってる。サシの入り方に、その祖先を感じる。これまたお馴染みの、でろーんと長いカルビの形でやってきて、チリチリのおばちゃんがテキパキと焼き、ひっくり返し、焼き、切り刻む。

切り刻まれた韓牛は、もう、いつもの韓国焼肉になっている。神戸牛が、アメリカでステーキにされるように、かように、文化は素材を圧倒するものか。

韓牛の味は、あんまり覚えてないけど、だいたい和牛かも。お会計は、二人で110,000 wonなので、まあ安くは無いが、高くも無いね。

北朝鮮の宣伝放送

Photo: “Dorasan station.”
Photo: “Dorasan station.” 2016. Paju-si, Korea, Apple iPhone 6S.

38度線付近、都羅山駅。

開城工業団地に通じる線路、向こう側にはGoogle Mapsが何も表示しない空間が広がる。南北朝鮮の関係悪化に伴って、団地は操業を停止している。だから、この線路に列車が走ることは無い。

バスを降りたときから、北朝鮮の宣伝放送が聞こえてきていた。この線路が続く先から、聞こえてくる。もっとよく録ってやろうと LINEのレコーディングをONにして、ホームの先に歩いて行った。

南から北に亡命しようとする人は居ない。だから、南側には別にフェンスのようなものは無い。極論すれば、走り抜けてしまえば、あっち側に行けてしまう。行かないが。


歩みを進めると、放送はいよいよ鮮明に聞こえてきた。

「ノーノー」

ホームに出たとき、周りには同行の観光客が何人も居たはずなのだが、振り向くと僕しか居ない。いや、韓国軍の兵士が居た。きっぱりと声をかけられて、兵士に連れ戻された。

板門店で指をさす女

"Panmunjom 2016."
Photo: “Panmunjom 2016.” 2016. DMZ, South Korea, Richo GR.

朝も早くから、ソウル駅近くのとあるホテルに集合させられている我々の目的は、JSAに行くことだ。JSA-Joint Security Area は、いわゆる板門店として知られる、南北朝鮮の国境エリア。北朝鮮問題がエスカレートしつつあり、立入が出来なくなる前に、いっぺん行ってみよう、ぐらいの気分だった。

センシティブな場所なので、JSAに個人で行くことはできず、ライセンスを持った業者が運行するツアーに参加する以外に選択肢は無い。そして、このツアーは、思いつきでは行くことが出来ない。訪問者に対するパスポートチェックがあるから、事前に日本から申し込んでおかないといけないのだ。しかも、ソウル市街からJSAは意外と遠くて、往復でほぼ丸一日かかる。出張のついでに半日観光、という訳にはいかないのだ。だから、今回は一度かの国との国境を見るためだけに、やって来た。

国連軍基地内のブリーフィングルームで、「何が起こっても(死んでも)責任は自分に有ります」という主旨の誓約書にサインをして、いよいよ出発。


DMZの入り口でバスに乗り込んできた二十歳ぐらいのJSA警備兵は、どう控えめに言っても精悍、エリートだなという感じが彼のプライドと共に伝わってくる。韓国は徴兵制だと言われるが、実際に前線の兵士になるのは徴兵検査時に7段階の判定のうち上位1-3級の人だけ。しかも、全員が兵士というのではなくて、警官などになる場合もある。韓国は徴兵制、という言葉から受けるイメージとは、ちょっと違う。どうりで、ソウルの街には、やる気の無い若い警官が無駄に沢山居て、たいして仕事もせずにおしゃべりに夢中なわけだ。

それだけに、JSAの警備任務につく兵士は身体能力に優れ、英語も話せる最前線のスーパーエリート。精鋭部隊とされる第一歩兵師団所属の彼に先導されて、チェックポイントから両側が地雷原になったDMZを越え、JSAに入る。およそこの世の中で、人がスマホで写真を撮らない場所はそうは無いが、JSAでは撮影が厳しく制限される。というか、決められた場所を(ここから、この方角)決められた時間(しかも1分とか)撮ることしかできない。


クライマックスの軍事停戦委員会の本会議場の見学は、手荷物制限、服装制限、写真制限がかかって、行儀良く歩けとか、静かにしろとか、いろいろ注意事項がある。韓国側のビルから、本会議場の建屋を見ると、ニュース映像で見るまさにあの平屋の建物と、歩哨に立つ韓国軍兵士の光景。イメージと違って、韓国・北朝鮮ともに大きなビルが本体の建屋としてにらみ合っていて、その真ん中にポツンと会議室が建っている。

「敬意を払って行動しろ」という、いまいち抽象的なインストラクションに従って、二列縦隊で歩かされる。警備は南北で時間交代制なので、間近に北朝鮮兵を見ることはできないが、よく目をこらせば対岸のビルに兵士の姿を望むことはできる。初めて肉眼で見る北朝鮮兵だ。北朝鮮側から拳銃を構えているように見えるので、絶対に指をさすなと言われているのに、早速兵士を指さす命知らずのツアー客の女。ちょっとやめてもらえますかね。