歯医者に通う

二ヶ月近く通わされていた歯の治療が、ようやく終わった。

とかく、歯医者というものは際限なくダラダラと治療をするものであり、黙っているといつまでも通うはめになる。案の定、僕は3本の虫歯の治療のために8回も通院した。
「もっとまとめて治療できないんですかねぇー」と、言えばいいのだろう。(職業柄、お客のそういう反応が、予想以上にプレッシャーになることは知っている)

しかし、僕の通っている歯科の医院長に限っては、とてもそんなことを言える相手ではない。


医院長の特徴は、二人の有名人に集約される。

見た目は、石原慎太郎である。目には、揺るぎない自信がみなぎり、ロマンスグレーの髪をなびかせて、鮮やかな手際で治療する。

受付には、権威のありそうなデンタルスクールの卒業プレートが幾つも飾られており、スタッフは若いねーちゃんではなく、ベテランの助手を揃えてい る。治療には容赦がなく、いざとなれば患者の不意を付いて、虫歯を隠す歯茎を電気メスで焼き切ることも辞さない(めちゃくちゃ痛かったぞ、コレは)。


声は、田崎真也である。
「ここのかみ合わせが良くないから、歯茎に負担がかかっているのです。」
まるで、ワインの特徴を説明するかのように、ささやく。
「全部入れ歯だね」と宣告されても、「はぁ、そうですかぁ」と言ってしまいそうな声だ。

そして、見事なテクニックで、虫歯をミクロン単位で追いつめていく。削った歯を埋める金属は一発で収まり、麻酔の使いどころもバッチリだ。


こんな人に、「あと何回ぐらいで終わるんでしょうかぁー?」なんて、僕は聞けない。

そういうわけで、僕は素直に 8回通院し、晴れて虫歯を全て治した。とりあえず、やり残して気がかりだった宿題を片づけてしまったような、そういう気分である。

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